2013年10月15日火曜日

真壁昭夫教授の考え方

窮地のオバマが放った希望の矢・イエレン氏の重責


初の女性FRB議長は出口戦略の絵図を描けるか?

FRB史上初の女性トップが誕生

次期議長に指名されたイエレン氏

 10月9日、オバマ大統領がバーナンキFRB議長の後任として、現副議長のジャネット・イエレン氏を指名した。イエレン氏はFRB(連邦準備理事会)の中で金融緩和策を支持する“ハト派”の代表格で、バーナンキ現議長の政策を踏襲することになるだろう。



 ただ、今後金融緩和策の縮小のタイミングを探るなど重要な使命を帯びており、FRB内部の意見集約に苦戦するとの見方もある。同氏がしっかりしたリーダーシップを発揮して、米国経済の回復をいかに支援するか腕の見せ所だ。



 今回の指名に関しては、当初オバマ大統領の経済ブレーンであるローレンス・サマーズ・元ハーバード大学学長を指名する予定だったが、議会の反対が強いため、サマーズ氏自身が議長候補を辞退する異例の事態になっていた。



 サマーズ氏の辞退の意味は小さくない。もともとオバマ大統領の業績については批判的な見方が多く、経済専門家の中には「歴代の大統領の中でも最も業績の少ない大統領」と厳しい認識もあった。それに加えて、シリアへの軍事介入問題でロシアのプーチン大統領に主役の座を奪われた。



 2014年度予算案が難航しており、一部の政府系機関の閉鎖に追い込まれている。国民の生活にもマイナスの影響が出始めている。それに、今回のFRB議長選任についても不手際が続いた。



 さらにAPECなどのアジア歴訪を中止したため、会議での中国の影響力が増強することを許す結果になった。オバマ大統領の支持率はまだ下落余地がありそうだ。



 弱体化しつつある米国の政治をイエレン氏がいかにサポートできるか、わが国をはじめ世界の経済にとっても、重要なファクターになるはずだ。



 もともとイエレン氏は、次期FRB議長の最有力候補に名前が挙がっており、大統領から指名されたこと自体に驚きはない。しかし重要なポイントは、イエレン氏を指名したオバマ大統領の指導力の低下だ。



最近の失点はほとんど致命的?

懸念されるオバマ大統領の指導力低下

 経済専門家や市場関係者には以前から評価が低かったのだが、最近の失点はほとんど致命的と言えるかもしれない。最近米国から帰ってきた友人は、「オバマ大統領には何も期待していない」と半ば諦めた調子だった。



 米国大統領のリーダーシップの低下は、わが国をはじめ世界の政治・経済に重要なインパクトを与える。米国内の予算案や債務上限引き上げの問題についても今のところメドが立たず、米国債のデフォルトが懸念されるなど金融市場にもマイナスの影響が顕在化している。



 オバマ大統領の指導力低下が、それらの問題を一段と深刻化していることは間違いない。



 問題は、政治の能力の低下を誰がカバーするかだ。わが国のケースでは、1990年代初頭以降の景気低迷期に、政治が問題を先送りすることしかできなかった。それが“失われた20年”をつくってしまった要因の1つだった。



 その間、日本銀行はゼロ金利政策や金融緩和策を打ったものの、本格的な景気回復に結びつかなかった。



 米国の場合は、FRBは3回にわたって積極的な金融緩和策を打ち、足もとで景気は緩やかに回復している。バブル崩壊後の景気回復には、緊急避難的な金融政策が必要になる。問題は、緊急避難の金融政策を止めるタイミングだ。



 タイミングが早すぎると、景気の腰を折ってしまうことになりかねない。逆に、タイミングが遅れると、過剰な資金によってバブルをつくってしまうことが懸念される。今後、米国の金融緩和策の縮小のタイミングを計るのはイエレン新議長になる。同氏の能力が試されることになる。



最大の課題は金融緩和策の縮小

求められるFRB内部の意見集約力

 次期議長の指名を受けたイエレン氏は、FRBの歴史上初めての女性議長となる。同氏は著名経済学者として活躍した後、FRB(連邦準備理事会)の理事や大統領経済諮問委員長、さらにサンフランシスコ連銀総裁などを歴任している。



 同氏は、ノーベル経済学賞受賞者であるイェール大学のトービン教授の下で博士号を取得した。また、夫はノーベル経済学賞受賞者であるジョージ・アカロフ氏である。



 オバマ大統領がそうした本格派の経済通を次期FRB議長に指名した背景には、人々や市場の心理を安定化させる狙いがあるのだろう。



 同氏の経済学者としての軸足は、労働市場、特に失業問題にあった。社会の中で失業を一種のコストとして認識し、それを可能な限り回避する方策を主要研究テーマの1つと考えていたようだ。そうしたスタンスは、同氏がFRB理事としてバーナンキ議長の積極的な金融緩和策について、有力な推進者の1人であったことからも明らかだ。



 同氏が担う最大のポイントは、現在の金融緩和策の縮小・転換の時期を模索することだ。それは、口で言うほど容易なことではない。時期を見誤ると、米国経済の回復過程を崩したり、再びバブルを燃え上がらせてしまうことが懸念されるからだ。



 来年1月に就任するイエレン新議長にとって、さらに厄介な問題がある。それは、FRBの内部で意見集約を行わなければならないことだ。米国の金融政策はFRB内部の投票によって決定される。多数決で決められる以上、議長自らの判断を他のメンバーに認めさせることが必須の条件となる。



 そのプロセスでは、当然政治的な要素も必要になるはずだ。女性初のFRB議長が、それを見事にこなせるかについては多少の不安もあるだろう。



 また同氏は、金融機関に対して厳しいスタンスを持つことで知られている。金融市場が、同氏に対して十分なコミュニケーションをとることができるかについても、今後の動向が注目される。



その責任は想像以上に重い

世界経済の鍵を握る新議長の手腕

 足もとの世界経済を俯瞰すると、米国が牽引役の有力候補であること間違いない。オバマ大統領の指導力に陰りが見える現在、金融政策を司るFRBに対する期待が高まるのは当然だ。いやがうえにも、イエレン新議長に対する注目度が高まる。



 直近のFRBの議事録を見ると、9月の会議では金融緩和策縮小について意見が割れて、わずかな差で縮小が見送られたことがわかる。ということは、FRBの理事の間でも、縮小の適切な時期に関する判断にばらつきがあるということだ。



 おそらく、これからも見方がわかれることだろう。それを新議長が上手く集約するには、予想外に手間取ることになるかもしれない。



 現在の金融市場の主な見方は、これから良好な経済指標が出ると、12月までに金融緩和の縮小が始まり、2014年の半ばまでに緩和策が廃止されるというものだ。仮にその見方が適切だとすると、米国では金利水準が上昇し易くなり、為替市場ではドル高傾向になる可能性が高い。



 株式市場は、流動性の供給が減るため、一時的に調整局面を迎える可能性がある。その後、来年以降の米国経済の成長の構図が明確になると、再び上昇トレンドに戻ることが期待できる。



 無視できないポイントは、新興国からの投資資金の流出だ。足もとでは、潤沢に供給される資金の一部が新興国への投資に回っている。ところが、金緩和策が縮小になると資金供給量が減少し、新興国に流入していた投資資金が米国などへ回帰(リパトリエーション)することが想定される。



 その場合には、新興国の株式や為替が下落し、実体経済にも大きな影響が出ることが考えられる。従来、FRBは金融政策が新興国に与える影響をほとんど考慮しなかったが、今後はその要素を考えることも必要になるだろう。



 いずれにしても、イエレン新議長の責任は驚くほど重い。同氏は、米国だけではなく世界経済の行方を左右するようなポジションに就くのである。

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